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次の時代の萌芽

深層 第8回

2018年04月02日

所長の眼

所長
神津 多可思

 不思議なことに、元号が変わると時代の空気までも変わるような気がする。この4月から平成30年度が始まり、後世からは実質的に「平成最後の年度」としてみられる1年間になる。日本の近代史を振り返ると、元号が変わろうとする時、既に次の時代の空気を形づくる様々な萌芽があった。

 明治の前の元号は慶応。たった4年の間に大政奉還・王政復古があり、徳川幕府から明治政府への権力移行が起こった。明治は40年以上続いたが、半ばの明治22年に大日本帝国憲法が発布された。その次の大正までの間、実に11回の衆議院議員総選挙が行われている。「大正デモクラシー」と呼ばれる時代への胎動が起きていたと言ってよいだろう。しかし、そのデモクラシーによる国家統治が、昭和に入って戦争へ続く道に日本を向かわせてしまった。

 今、昭和の後半の記憶が鮮明な人もまだ多いと思う。しかし、昭和が前の前の元号となってしまえば、かつて「明治は遠くなりにけり」と嘆いていた年配の方々と同じ立場に置かれることになる。言うまでもなく、昭和の終わりはバブルの生成時期であった。平成はその日本発のバブル、さらには国際金融危機という欧米発のバブルという二つの大きな困難を乗り越えてきた時代であった。

 さて、萌芽はリアルタイムではなかなかハッキリとは分からない。しかし、良くみてみると、政治・経済・社会いずれの面においても、日本がこれから違うフェーズに入っていくと思わせる出来事は結構ある。技術革新に限っても、かつてのようには高い経済成長を支えられないとする見方がある一方で、「第四次産業革命」と呼ばれる拡がりもみせている。

 高速通信で結ばれた自働機械群が人工知能(AI)を装備する時代。地球規模で瞬時に集約された情報をだれもが判断材料にできる時代。生命体の再構成が可能となる時代。人類の活動空間が宇宙へと拡がる時代...。私たちはそうした次の時代の戸口に立っている。

 こうした中で、個人としてあるいは社会人として、私たちの求める様々な新しいニーズが存在する。両親ともに働く家庭でいかに豊かな子育てを実現するか。膨大な利用可能情報をいかに意味あるモノ・サービスの供給に結びつけるか。ますます長命となる高齢者が若い世代にできるだけ依存せず、いかに尊厳ある充実した人生を送るか...

 ニーズのそれぞれに対し、私たちが今萌芽をみている新しい技術を使うことができる。それこそが、これからの時代に企業が挑戦すべき課題となる。新しい時代を生きる人のためになることは、新しい社会のためになる。そういう仕事をしていこうとする強い意志が、新しい時代に踏み出す企業人の矜恃(きょうじ)だろう。

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神津 多可思

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※この記事は、2018年3月30日発行のHeadLineに掲載されました。

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